寿明義和先生から関西予選の皆様へ
この先行きの不透明なコロナ禍の制限の中、一致団結の協力体制を見せる関西の地でも、例年に比べて参加される人数が減ってはいないことからも、
このような、演奏で人が集まれる場というもの、つまり「不要不急」の「三蜜空間」がいかに求められているかを感じます。
なかでも愛好家の皆様の交流の場というものを昨年のように満足に提供できなかったことは大変残念でしたが、
それでもこの時節に敢えて人前で演奏を披露することを選んだ皆様は、これが不可欠な人間の営みであることを平時より強く自覚されたことと思います。
昨年に続き今年も神戸芸術センターシューマンホールでの開催でしたが、今年は楽器が弾きにくかったという声をいくつか聞きました。
私自身昨年ベートーヴェンの月光ソナタを披露したSauterで、当然今回より新しく摩耗も少ない状態でしたが、
打鍵の際のハンマーの抵抗に独特な引っ掛かりがあり、調律師の方に伝えた記憶があります。それでも私の演奏でそれに気づかれた方はいなかったと思いますが、
今回はその引っ掛かりが緩やかな打鍵には不都合な程になっていました。
ある演奏者の曲目によっては、弱音をキープし易いものでも、他の人のゆっくりな打鍵では音がうまく鳴らなかったりという状態だったように思いますが、
それでも演奏をある程度自分の思うように展開されていた方もいて、ですからここで物を言うのは演奏経験の数と言えそうです。
往々にして本番とはこのような未知の楽器に悩まされるものですが、だからこそ少しでも楽器や客席から助けられる経験をした人はまた次回に期待するものです。
舞台は聴衆を含め生き物のようなものです。自分の思うように演奏できなかった方もこれに懲りず、大いに次回に期待して練習を楽しんでいただければと思います。
寿明義和
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